大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)492号 判決 1966年12月26日
控訴人 池谷ハル
右訴訟代理人弁護士 環長三郎
被控訴人 植田雄一
被控訴人 位上謙一
右両名訴訟代理人弁護士 高橋吉久
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人植田は控訴人に対し大阪市浪速区元町一丁目七四九番地の二宅地一〇二坪二合二勺、同所七五〇番地の九宅地一合三勺のうち、原判決末尾添付図面表示の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(イ)の各点を順次つないだ直線内の部分約一坪九合五勺を、その地上の便所、木造トタン葺二階建増築部分を収去して明渡せ。被控訴人位上は控訴人に対し前項記載の宅地のうち、前記図面表示の(ヲ)(ワ)(カ)(ヨ)(ヲ)の各点を順次につないだ直線内の部分約三坪三合六勺を、その地上の板塀その他の工作物を収去して明渡せ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は、控訴代理人において当審証人上武幸太郎の証言を援用したほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
理由
当裁判所は控訴人の本訴請求を理由なしと認めるものであってその理由は左記に附加するほか原判決理由説示と同一であるからここにこれを引用する。
一、当審証人上武幸太郎は、本件係争地部分(原判決末尾添付図面(A)(B)の部分)に存在する便所板塀等は昭和二六年頃以降において被控訴人らが設置したものである旨供述するが、右供述は原審での同人の証言及び被控訴人ら各本人尋問の結果に照したやすく措信し難い。
二、≪証拠省略≫によれば、被控訴人植田は兄植田竹三郎が前掲図面(イ)(ロ)(チ)(ト)(イ)の範囲全部を上武槌之助から適法に賃借しているものと信じて竹三郎から賃借権(但し客観的には右土地中(A)の部分が竹三郎の賃借範囲であったとは認め難いこと原判決説示のとおりである)の譲渡を受けたものであるところ、当時の賃貸人上武槌之助は竹三郎が(A)地上に便所等を設置して前記(イ)(ロ)(チ)(ト)(イ)の範囲全部を使用収益していたこと及び右賃借権譲渡により被控訴人植田が竹三郎と同様の使用収益をすべきことを認識し乍ら、右賃借権譲渡につき右(A)地の使用に関しても何ら異議を留めずに承諾したことが認められる。そうすると、槌之助ないしその承継人たる控訴人は、たとえ竹三郎に対しては(A)地部分が賃貸地の範囲外であることを主張し得ても、賃借権の譲受人たる被控訴人植田がその賃借権の外形と前記槌之助の異議を留めぬ承諾を信頼し客観的賃借範囲の一部欠缺につき善意であり、且つ賃貸人たる槌之助が右一部欠缺の事実につき何等異議を留めることなく外形的賃借権全部の譲渡を承諾した以上、右承諾は抗弁事由の存する指名債権の譲渡につき異議を留めず承諾を与えた場合に類似するから、民法第四六八条第一項の類推により譲受人たる被控訴人植田に対しては賃貸範囲一部欠缺の主張をなし得ないものと解するを相当とする。
よって本件控訴は理由なしとして棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用の上、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡垣久晃 裁判官 奥村正策 畑郁夫)